火山灰は、距離だけでは決まりません
地震だけを見た備蓄リストでは、降灰への備えが丸ごと抜け落ちます。偏西風で東側へ流れる火山灰の量、止まる交通、必要な備えをまとめました。
このサイトがあるのは、この章のためです。地震だけを見た備蓄リストでは、降灰への備えが丸ごと抜け落ちます。日本の上空には偏西風が吹いているため、火山灰は東側へ流れます。火山から同じ距離でも、西側と東側では降る量がまったく違います。灰が数センチ積もると、断水・停電・物流の停止が同時に起こります。外に出るには防塵マスクとゴーグルが要り、地震のときより長く自宅にとどまることになります。
国は降灰の量を3cmと30cmで区切り、とるべき行動を分けています。この数字はイエマモルが決めたものではなく、内閣府が令和7年3月に示した区分です。同じ「灰が降る」でも、数ミリと数十センチでは起きることがまったく違います。
| 3cm未満 | 鉄道は微量の降灰でも止まります。レールが灰で覆われ、信号や踏切に障害が出るためです。視界も悪くなります。それでも、自宅での生活は続けられる段階です。 |
|---|---|
| 3cm以上 | 徒歩以外の移動が制限されます。道路は除灰の対象になり、緊急輸送道路の啓開が終わるのは噴火4日目の朝と試算されています。それも緊急車両のためで、一般の車の通行は想定されていません。停電や断水が長引くと、備蓄だけで自宅にとどまるのが難しくなります。 |
| 30cm以上 | 雨が降ると、木造家屋が灰の重みで倒れるおそれがあります。降灰後の土石流の危険もあります。この段階では、備蓄の量ではなく地域の外へ避難することが前提になります。 |
イエマモルが備蓄日数を上乗せするのは3cm以上の地域です。買い足しに行けない状態が続くのが、この段階からだからです。出典は内閣府「首都圏における広域降灰対策ガイドライン」(令和7年3月)の被害の様相のステージ区分です。
灰は、あらゆる交通を止めます
火山灰は、触れてすぐ命に関わるものではありません。内閣府も「地震災害や洪水災害と比べ、緊急的・直接的な命の危険性は低い」と書いています。危ないのはそこではなく、止まったものが動き出さないことです。
鉄道は、微量の降灰で地上の路線が止まります。レールが灰で覆われると車輪との通電が途切れ、信号や踏切に障害が出るためです。停電の状況によっては、地下の路線も止まります。
空港は、滑走路に2mm積もると除灰作業が必要になります。船も、視界の低下に加えて、浮いた軽石が冷却水の管を詰まらせます。道路は3cm以上が除灰の対象です。
電気と水も同じ理由で弱くなります。内閣府は浄水場と電力施設を「降灰の影響を受けやすい施設」として、優先して灰を取り除く対象に挙げています。エアコンの室外機も目詰まりします。
出典:内閣府「首都圏における広域降灰対策ガイドライン」(令和7年3月)
積もった灰には、捨て場所がありません
雪と違って、火山灰は溶けません。内閣府の表現では「除去しない限り無くならない」。そのうえ風で舞い戻り、雨が降ると固まります。だから、降りやんだ時点が復旧の始まりですらありません。
量が桁違いです。宝永噴火と同じ規模で試算すると、噴き出す灰は約17億㎥。そのうち道路や建物のある場所に積もる分だけで約4.9億㎥で、これは東日本大震災の災害廃棄物の約10倍にあたります。自宅で生活を続けるために最優先で取り除く道路と鉄道の分に絞っても、約3,100万㎥です。
運び出した先も決まっていません。最終処分場は廃棄物のための施設で、火山灰のような土砂は原則として受け入れません。そのため、いったん仮置場に積み上げることになりますが、その場所の確保自体が課題とされ、仮置きが長期に及ぶ可能性も想定されています。
だから備蓄の日数は、灰が降っている間だけでは足りません。道路が開くまで、水と電気が戻るまでを見込む必要があります。
出典:内閣府「首都圏における広域降灰対策ガイドライン」(令和7年3月)
火山灰から、身と家を守る
吸わない、目に入れない。火山灰は微細でガラス質のため、一般的な不織布マスクでは防げません。N95などの防塵マスクと、密閉できる防塵ゴーグルが要ります。コンタクトレンズは角膜を傷つけるので外してください。
家の中に入れない。閉めた窓や換気口の隙間からも入ってきます。降りはじめる前に、養生テープで目張りをしてください。エアコンは外気を取り込まない設定にします。
積もったら早く下ろし、正しく捨てる。火山灰は雨を含むと重くなり、屋根に積もったままだと建物の重みになります。掃除機は目詰まりし、水で流すと側溝や下水管を詰まらせます。掃き集めて厚手の袋に入れ、自治体の指示に従って出してください。
出典:富士山火山防災対策協議会 富士山ハザードマップ(令和3年3月改定)、気象庁 活火山一覧
写真:ぱくたそ
防災士監修(2026-09-18)